朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
「……青砥さん。私は部外者ですし、
踏み込むことはできませんが。
私が今日ここを伺った理由は、
特に何も無いんですよ。」
「え?」
「那津君が、主人に相談したみたいなんです。」
"うちのアシスタント、部屋にこもってばっかりだから話し相手を誰か用意したい。"
「……、」
「それを主人に頼まれて、意を決して押しかけました。すみません急に。
そして話し相手にしては、
あまりに愛想の無い女で申し訳ないです。」
「…いえ、すごく嬉しい、です。」
声の震えを隠したら不自然に言葉が途切れたけど、香月さんは、絶対指摘したりしなかった。
「那津君は、貴女が大切なんだと思います。」
"…お前は店番してて。"
___買い出しに行くって、言ったくせに。
これ以上、彼女に言葉を畳み掛けられたら、もう溢れてしまいそうな何かを必死に隠すように俯いた。
「…そこに、甘え続けるわけにはいかないんです。」
「え?」
「あの人は、お人好しだから。
私は近いうち、
此処を出ていかなければと思っています。」
「……、」
ジッと私の言葉を最後まで聞いてくれた香月さんは、やはり涙の気配には気づいていたようでハンカチを差し出して。
「そうですか。」と、私の言葉を受け止めるだけで、それ以上は、その後も詮索はしてこなかった。
◻︎
「…これ、主人と私の名刺を渡しておきます。
今後、弊社が那津君に何か仕事を依頼することになれば、主人が必ず、嫌でも登場すると思いますので。」
「頂戴します。」
受け取った名刺の一枚には、
【香月 皇】
と記載されていた。
「……ありがとうございました。
上司に心配をかける部下では、駄目ですね。
情け無いです。
だけどお話しできて楽しかったです。」
しっかりお辞儀をして玄関先で告げると、パンプスを履き終えた香月さんに名前を呼ばれた。
「青砥さんは、自分が"弱い"と思われますか?」
突然の質問に一瞬固まってしまったけど、しっかりと光を宿す視線に促されるように答えが零れ落ちた。
「…そう、ですね。嫌というほどに。」
「逆ですね。
私は、青砥さんは強いと思いました。」
「…え?」
「弱いと自覚してもがく途中の人は、
"弱い"に分類されるとは思いません。
何かあれば、いつでもご連絡ください。」
「……、」
満足そうに、そこで漸く今日1番の微笑みを見せた彼女は、やはり、とびきり美しかった。
彼女が去った後も、私はその場に暫く立ち尽くしていた。
「…お人好しな人には、
やっぱり同じような人が集まるのかな。」
貰った名刺2枚を大切に握りしめて呟いたら、それと同じタイミングでポケットの中のスマホが震える。
【着信中:課長】
その文字を見た瞬間、心臓の拍が嫌なリズムに変わってしまう私は、やっぱり弱い以外の何者でも無い。
____"私は近いうち、
此処を出ていかなければと思っています。"
自分が口にしたはずの言葉が、覚悟の甘さを物語るように深く深く刺さる。
一気に汗の滲む手を自覚しながら、スマホを耳に当てた。