朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
「今度の×社の案件でお世話になります。
ご挨拶に伺いました!」
ドア越しにそう、高く快活な声が聞こえて、
一気に表情に苦さが増した。
なんでわざわざ。
大体の案件は、メールや共有のファイルで進めて、顔合わせなんかは本当に必要な時だけで、割といつも効率よく進むのに。
恐る恐るそのドアを開けると、淡いグリーンのセットアップスーツを身に纏った女に対峙した。
「アカプラの青砥 その です。
ご一緒させていただくのは初めてだと思いますが、
どうぞよろしくお願いします。」
「……どうも。那津 依織です。」
深く綺麗なお辞儀を終えたら、整いを保つ顔立ちの中でも、ぶつかった視線の先の丸い瞳が1番印象に残った。
陶器のような肌は当然白く、でもそれには冷たさは無い。ちゃんと廊下の窓からの陽の光を浴びてきらきら輝く透明感がある。
「わざわざ挨拶とか、大変ですね。」と、他人事のように告げても「私にとって大事な案件だ」と主張して、まるで気にしない。
俺が滑稽な"ご利益デザイナー"なんてあだ名で呼ばれていることをこちらから吹っかけても、少し眉を寄せて「なんか寝起きのやる気無いお兄さん」と、逆に失礼を重ねてきた。
なんだこの女。
肩透かしを食らってばかりで、腕組みをしたまま自分より背の低い女を見つめていると、不意にまた、丸い瞳の中にきちんと意志を携えて、こちらに正面から言葉を投げる。
「那津さんが、この案件に乗り気じゃ無かったとしても。"青砥のためにやるか"って思っていただける働きを、全力でします。」
「…那津さん含め、関わるチームの皆さんがコンペの内容にだけ注力できるよう、他の面倒ごとを請け負うのもアカプラの仕事です。
それ以外でご迷惑はおかけしません。
とにかく良いデザイン、お願いします。
出来れば他の案件より候補に使うデザインラフ多めで。」
デザインが欲しい、なんて、
もう何百回と言われてきた。
でも俺からそれを貰うために「自分は自分の働きをする」のだと。
こっちだって頑張るんだから、お前も当然頑張れと。
そんなことをズカズカ伝えてきた奴は居なかった。
なんだ、こいつ。
思わず「厚かましい」と笑ったら、少し驚いたような表情で瞬きをして、そのままふわり相好を崩す。
同時に細い肩の曲線が下がっていくのを見て、そこそこの大口を叩いておいて、力が入って緊張していたのか、と気付く。
その笑顔を見た時、なんとなく、春の花々が仄かに色をつけるような、そういう優しい静けさを淡く頭でイメージした気がして、「職業病だ」と結論づけた。