朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加

◻︎

「おはようございます那津さん!!」

「…うるさ。」

仮眠を勢いのあるノックの音で妨げられ、溜息と共にドアを開けると、案の定、今度の案件を一緒にやることになった女が勇んだ様子で立っていた。


「…え、なに。」

「もうずっと那津さんが捕まらないから、
早朝、此処に突撃することに決めました。」

「…え、すげー迷惑。」


決めました、じゃねえわとポツリと本音を漏らしても全く揺れない。


「こっちだって那津さんに、先方の情報とか進捗色々とお話しないとマズイんです!メールも見てくださってるのかいまいち分からないし。」

「あー、見てる見てる。」

くあ、と欠伸をまた咬み殺したら、鋭く睨まれた。
でもベースの丸い瞳は変わらないのでそこまで迫力は生まれない。




「共有事項があるときは、
こうして朝ごはんと交換で、私に時間ください。」

「…お前が作ったの?

「そうです!!コンビニでばっかり済ませてたらダメです!」

「…おかんかよ。」

なんでバレてんだ。

でもぐい、と顔に近づけられたソレを思わず受け取ると、コンビニで買ってきたものじゃ感じない、体温に溶け込むみたいな温かさを感じた。




そこから大体、朝ごはんを携えて、
この女は朝の挨拶と共に会議室のドアを叩いた。


ご利益デザイナーだなんだと、名前を利用して来るやつは今までいくらでも居た。

俺も制作するデザインの数は多ければ多い方が経験値としては良い。
"利害の一致"と言えるビジネスの環境に、別に今まで何も思わなかった。


「那津さん、ラフのイメージは何かありますか?
とりあえず今度のオリエンテーションに行かないことには詳細はまだ分からないですが、現段階での募集の要項をまとめてるので、それも送ります。」


こんな風にコンペを勝ち取るために本気で俺に良いものを作って欲しいと思ってる、みたいな。

そういう姿勢でぶつかられたことは、
あまり無かった。


目の前でパソコンと難しい顔で対峙する女は、
また肩に力が入っている。


青砥が持ってきたバッグの中身を見ると、おにぎりが2つと、卵焼きを含むおかず4品ほどの小ぶりのタッパーだった。


「……コンペのオリエンテーションいつ?」

それを見ていたら、全く意図していなかった言葉が自分の口から出ていたのは何故だろう。


「…え。」

「いつ。」

「…あ、来週の月曜、14時からです!!」

「俺も行く。」

「え!?」

「何。」

ガタリ、その場で立ち上がった女は、やはり丸い瞳を最大限に見開いてなんの躊躇いも無く俺を見つめていた。


「だって、那津さんって面倒なこと全て蹴散らして生きてそうだから。同行してくださるんですか?」

「お前もうちょっと言葉選べよ。
いらないなら、行かないけど。」

「い、要ります!!!
那津さんが必要です!!!」


「……、」

この女は、それなりに恥ずかしい台詞を吐いてることに全く気付いていないらしい。

俺が指摘するのも変だと、手に持っていたおにぎりのラップを剥いていると「那津さん」と高めの声が鼓膜を揺らす。


「那津さんの作品が、
私は純粋に凄く楽しみなんです。

那津さんの作品と勝負できるのが、嬉しい。

プレッシャーを与えたいわけじゃなくて、
…だけど、ずっと待ってます。」



"会社にあんまり信用無いのは分かるけど。

でもそこに居るみんなが、
そういう考えだとは限らないだろ?
お前の作品をちゃんと見てる人も居るよ。"


何故だか、その言葉と共に若干照れたような笑顔の女を見ていたら、皇に以前、電話で言われたことが思い出された。


この女の照れる基準が、いまいち分からない。

「…オリエンテーションの詳細も送っといて。」


そう言えば、やっぱり嬉しそうに笑う青砥に自分の口角も少し緩んだのは流石に気付いていた。



再び椅子に腰掛けて、パソコンに向かう女は

「1人だと心細かったので、人相あんまり良く無い那津さん居てくださったら、戦場でも心強いです。」

失礼な枕詞と共に、
本当に少しホッとしたように呟いた。


「お前、1人で行く予定だったの?」

「そうなんですよ。」

「……、」


何故、このそこそこ以上に規模の大きい案件に、新人に近いアカプラをあてがって、上長の介入があまり無いのか。

この時確かに感じた違和感をもっと、問い詰めておけば良かったと。


何度も何度も、後悔している。

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