花を愛でる。
「でも遊馬さん、たまに俺にも連絡をくれるようになって。なんだか昔の遊馬さんに戻ったみたいだ。田崎さんにお陰かな」
「私は何も……」
「田崎さんも遊馬さんに似てきたのかな」
私が?と疑問に思うと彼が「あの人そういうところあるから」と珈琲を一口含んだ。
「無意識に周りに影響を与えちゃうんだよ。うちの兄は我が強いから全く影響受けなかったけど」
「あぁ……」
残念そうな笑みを浮かべる彼に私は単調な反応しか示せなかった。
だけど彼の言う通り、私は知らない間に社長から影響を受けているのかもしれない。でもそれが嫌な感覚ではない。
「(本当に不思議だな、以前だったら彼に似てきたなんて言われたらきっと拒絶していた……)」
そういう人が現れるのって、もしかしたら人生で初めての出来事かもしれない。
感慨に耽っていると、隣に座っていた黛さんがふっと意味深な笑みを浮かべた。
「遊馬さんのことが好き?」
彼の言葉が一瞬飲み込めず、ワンテンポ遅れて「え?」と返答を零す。
「す、今そんな話でしたか?」
「いや、でもそうなんだろうなって思って」
「……私は、」
改めて社長に対する自分の気持ちを整理する。確かに彼に対して特別な感情を私は抱いている。
だけど今はその感情が何であるかは定義しない方が自分の為にも、彼の為にもなるような気がして表には出さずにいる。
「……彼を好いているのは確かです。でもそれは恋愛感情であるかどうかは分からないです」
「……」
「今は……彼の問題が解決するまでは何も考えないようにしています」
きっとそれが正解だから。すると私の言葉を興味深そうに聞いていた黛さんは「そっか」と小さく呟いて、
「なるほど、そういうことか」
「え、何がですか?」
「ううん、何となく気付いていたことだから」
まただ。私は何も理解できていないのに黛さんだけ一人で納得している。それだけ彼の方が人間として優れているということなのだろう。
やはり今日の黛さんは秘書の感じではないからか会話もふわふわとしてしまっている。