花を愛でる。

花を咲かせる。




「田崎さん、今週の金曜日の夜空いてる?」


週の初め、朝のミーティングが終わり、一度秘書課に戻ろうとしていたところを彼に呼び止められる。
またいつもの食事の誘いか、と呆れていると社長はそんな私の考えを見透かし、「違うよ」と笑う。


「一緒に参加してほしいパーティーがあるんだ。挨拶する人数が多いからさ、今回は秘書のサポートがいるかなと思って」

「仕事なら最初からそう言ってください」

「ごめんごめん」


謝罪を二度重ねた信用のない彼。スケジュールを確認したが金曜日は彼について外へ打ち合わせに出た後時間が空いていた。


「多分出先からそのまま会場に向かうことになるからそのつもりで」

「分かりました」

「あとこれね」


そう言って突然腕の上に置かれた大量のファイルに目を見張る。
彼は天使のような微笑みを浮かべながら、悪魔のような言葉を吐き出した。


「パーティーに参加する予定の人の名簿、全員顔と名前覚えておいて」

「……何人でしょうか?」

「んー、100人くらい?」

「ひゃ……」


100人!?と流石の私でさえも驚きの声を上げてしまう。彼曰く、実際はもっといるようで、100人は彼が挨拶する必要がある人数らしい。
それでもそんな大勢の人の顔と名前を5日間で全て暗記できるものなのだろうか。

しかしこれは秘書として彼から任された仕事。向坂遊馬の秘書として、何としての遂行しなければならない。
言ってしまえばこれは彼から与えられた私への挑戦状。


「分かりました。必ず当日までに全て頭に叩き込みます」

「(変なスイッチ入れちゃったな……)」


やる気に満ち溢れた私に対し、「よろしく頼むよ」と優雅にコーヒーカップを口に運ぶ。
今から仕事だというのに相変わらずマイペースだなと眺めていると、とある疑問が頭に浮かんだ。


「一つ教えていただきたいのですが、それは何のためのパーティーなんですか?」

「……」


私の質問にピタリと動きを止める社長。暫くして飲み干したカップをテーブルの上に置き、はあと愁いを帯びた溜息を吐き出した。


「おめでたい腐れ縁の昇進祝い」



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