花を愛でる。



いつもカステラの話になるな。というかそんなに気に入っていたのか。
まあ母がそれでいいって言うなら私も付き合うけれど、この間の短い時間だけでも地獄のように感じたのに食事だなんて、無事でいられるのだろうか。


「分かりました。母にもそう言っておきます」

「……話はそれで終わり?」

「……はい」

「そっか、じゃあ」


次は俺からね、と彼は口にするとデスクの引き出しを引いて中から何やら両手サイズの正方形の白い箱を取り出した。
そして椅子から腰を上げ私に近付くとその箱を前に差し出す。


「これ、よかったら受け取ってくれる?」

「え?」

「誕生日プレゼント」


思いがけない言葉に再び「え、」と言葉が漏れた。


「たん……いえ、いただけません! 私何も……」

「普段からお世話になっているお礼と、まあこの間のことでまだ落ち込んでたら元気になるきっかけにもなるかなって」


その必要はなかったみたいだけど、と箱を前に出してくる社長に首を横に振る。
誕生日プレゼントなんて、確かにこの間は私の誕生日だったけどまさかこの人から貰えるだなんて微塵も思っていなかった。

気が引けてなかなか受け取ろうとしない私に痺れを切れしたのか彼が深く溜息を吐く。


「はあ、とりあえず中身だけ見てよ。それで受け取るかどうか考えていいから」

「っ……分かりました。で、では」


失礼しますと彼から箱を受け取るとゆっくりと上の蓋を外した。
思ったよりもずっしりとした重さがあるそれに「なんだ?」と首を傾げながら手を入れると指先が硬くて冷たい何かに触れた。

これは……


「グラス……ですか?」


緩衝材の中から取り出したのは鮮やかな青を彩ったガラスで作られたグラスだった。
幾何学模様をあしらったそのグラスは光に当てると更にその青が濃くなり、眺めているだけで心が落ち着く。


「素敵……」


だけどこれ、凄く高いものなんだろうな。


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