花を愛でる。



「気に入ってくれた?」

「は、はい。でも……」

「よかった。それ、俺が作ったんだ」

「そうなんですね」


凄いなあと眺めることに夢中になり、彼に言われたことを取り零す。
はたと動きを止めるとロボットのようなぎこちない動きで首を社長の方へと向けた。


「今、なんて……」

「ん? だから俺が作ったんだ。と言っても二年前に作ったのを家に飾っていたんだけどさ、飾っているだけじゃ勿体ないなと思って」


今さらりと凄いことを言われたように感じるが、あまりにも自然な態度の彼に頭が混乱する。
これを作ったって、どう見てもこのグラスは工芸品で機械の力ではなく人の手によって仕立て上げられたものだ。どこからどう見てもプロの技だと思っていたが、このグラスを作ったのが今目の前にいる社長だと?

改めてグラスに目を向けるが素人目で見てもかなり高度な技が使われているように思える。


「それにこの青の感じ、なんか眺めてると花にぴったりだと思って。涼しげでいいかなって」

「こ、こんな価値のあるものを私が貰っていいんですか?」

「価値って、俺が作ったんであって別にプロが作ったわけじゃないよ?」


彼の言う通りだけど、私にとってこのグラスがプロが作ったよりも大きな価値がある。
それにその話を聞いて受け取らないなんて考えは彼に対して失礼すぎる。


「ほら、花が持ってて。そうしたらこれは俺にとっても価値が出るはずだから」

「っ……」


耳元で囁かれた言葉に嫌でも胸が飛び跳ねた。勘違いするな、彼はあの向坂遊馬だ。きっと私以外の女性にもこうしてプレゼントを送っているかもしれない。
今更彼に女扱いされただけで浮かれるなんて、そんなことがあってたまるものか。


「ありがとうございます。大事に、します」

「そうしてください」

「つかぬことをお聞きしますが、社長の誕生日って」

「もう随分前に過ぎたねえ」


これはもう、返し切れないものを受け取ってしまった。


「(この人を好きになったら苦労するだろうな)」


誰にでもこんな態度を取る人なんて、信用できないもの。
私はひっそりと心に頑丈なカギを掛けた。


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