花を愛でる。
二時間半後、大阪の地に降り立った私たちは新大阪周りの定食屋で簡単に食事を済まし、早速得意先への挨拶へと向かった。
会社の応対室に通された私が心を無にすることによって緊張を紛らせていると隣でやけにスマホを気にする社長の姿があった。
「誰かから連絡待ちですか?」
「え、」
「スマホを気にしていらっしゃったので。あれなら私が見ていましょうか?」
「……いや、いいんだ」
気にしないでと彼がスマホを仕舞ったと同時に、相手の社長が部屋に入ってきたので気持ちを切り替え腰を上げた。
大阪という地にいることもあって、場所を移動する度に視界に映る景色が新鮮だ。
得意先の会社を出ると社長は腕時計を確認し、「まだ時間があるな」と言葉を零した。
「お腹空いてない? お昼早かったでしょ」
「……少し」
「次行くまでどこかで時間潰そうか」
どこか、と私が辺りを見渡して休憩できるところを探していると不意にスマホが鳴る音がした。
社長は一瞬動きを止め、スマホを取り出すとゆっくりと画面を確認した。その時の手つきがどこか震えて見えたのは私の気のせいだろうか。
「ごめん、少し電話するから適当に休めそうなところ探して入っててくれる? 連絡残してくれたら向かうから」
「かしこまりました」
彼が電話対応するために私の元から離れていくのを見送ると、改めて周りを見渡してカフェなどを探す。
と、
「っ……」
視界の端で何かが離れていって社長を追いかけるように動いたのが分かった。
そしてそれがここに来る前、新幹線に乗る駅で感じた違和感と同じであることも。
直ぐに物陰に隠れたそれを目で追うと自然と脚がそちらへと動き出す。違和感を追って角を曲がるとそれが建物と建物の間に入っていったのが見えた。
「(今少しだけ見えた後ろ姿、まさか……)」
そう、脚を路地裏に踏み入れた時、
「やめてください!」
中から聞き覚えのある声の少女の叫びが耳に届き、私は一気に駆けだした。