丸重城の人々~前編~
「姫、俺にたいしてもびくびくしててさ。
初めて会った時みたいに、目を見てくれなくて……。やっと慣れて、目を見て笑顔で色々な話してくれるようになってたのに、また最初からだよ…。今度デートする約束してたのに……」
「俺は後悔してる。この前の様子がおかしかった時、もっとちゃんと聞いてあげてたら、こんな傷つけずに済んだのにって!柚希ちゃんのこと妹みたいに大切なのに、傷つけてしまった」

四人の悲痛な言葉が響く。
「まさか……。
こんな辛い思いをさせてたなんて、夢にも思わねぇよ!俺は柚の旦那なのに、幸せにしたいのに、こんな………」
「俺達も、柚希のボディーガードなんて言っておいて、ここまでならないと気づかないなんて………」
「………」
「……俺達は柚希ちゃんのボディーガード失格だ…」

「もう…ゆる……し、て…くださ……」
「あ?なんか言った?」
忠司のかすれた声に、大翔が答える。
忠司はほとんど虫の息だ。
でも気絶しかけると、中也にバケツの水をかけられる。
気絶もさせてもらえない。
それこそ、生き地獄だ。


その頃の柚希と響子。
「ねぇ響ちゃん。大丈夫だよね?忠司くん、殺されたりしないよね?」
「大丈夫よ!そんなことはしないよ。私だって、そんなことしたことないでしょ?
本当の地獄はね、死ぬことじゃないのよ。
死にたくても死ねない。苦しい状況の方がよっぽど地獄だわ」
「うん、そうかもね」

「でもね、忘れないで……」
「え?」
「柚希を傷つけた落とし前は、つけさせなきゃダメなの。少しずつ色んな人と話せるようになってきてたのに、また逆戻りでしょ?」
「え…?」
「今だって、震えてる……」
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