金のセミ
季節は暑い真夏。ちょっと外に出ただけで半袖の白いシャツには
汗のマークがつき、すぐにビショビショになる。すぐに洗濯物が大量になる。でも暑くてすぐに乾くから問題ない。自転車に乗って走ると爽やかな夏の風が体を包み、本当に気持ち良い。すぐにノドが乾くからサイダーやコーラなどがいつもより美味しく感じる。水の冷たさが気持ち良い夏。夏休みが長くて嬉しい夏。暑いけど太陽の光が眩しくて、快感の季節。僕はセミとりをしていた。夏の風物詩である夏のセミに金色のセミがいるらしく、取ると過去にタイムスリップできるらしい。一番行きたい過去とはいつか。金のセミの目撃情報は100人を超える。ある神社にいるらしい。僕がタイムスリップしてまでやりたいことは、中学時代に戻り、硬筆で埼玉県知事賞を取ることだ。当時、硬筆で学年代表にまではなったが、結局、県の優良賞止まりだった。下手だった。埼玉県知事賞という埼玉県で一番スゴい賞にはかすりもしない。知事賞はレベルが全然違った。今、10年が経ち、25歳になったが、今更、中学生の硬筆コンクールに出すわけにも行かないし、出したら公平じゃないし、悩んでいた。ただ、中学時代より5倍くらい上達していて、推薦賞以上いけるんじゃないかと、確信がある。自分がどのレベルなのか確かめたかった。埼玉県知事賞の作品を見ながら、練習する日々が
続いていた。金のセミを手に入れたら過去にタイムスリップできるという噂にロマンがあって気に入り、金のセミを手に入れようとした。自転車に、虫取りアミを持ち、蚊に刺されないように長袖長ズボンでよく晴れた快晴の日に例の神社に行った。3時間くらい探し回ったが、結局、アブラゼミとニイニイゼミとミンミンゼミしか取れなかった。諦めてコンビニに行ったら、なんと金のサイダーという商品があったので珍しいと思い買ってみた。コンビニの外で立ち飲みしていると、なんと珍しい色のセミが窓に止まっていたので捕獲。ネットで調べたら、金のセミだということが判明した。ようやく見つけた!何が起こるんだろうとワクワクしていた。
その日の夜、捕まえたセミは調理して、弟が食べた。弟はセミが大好物だった。しかし、間違って金のセミまで食べてしまい、オレのタイムスリップの夢は終わった。しかし、これでよかったのかもしれない。タイムスリップしてまで埼玉県知事賞を取れても、正直、ズルとしか思えない。
中学生の硬筆コンクールに大人が参加するのは卑怯だと思った。
それで一番スゴい賞取れても素直に喜べる気がしない。
だから、これでよかったんだ。これで。
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