はじめてのカレカノ
さよならの先に


自宅の最寄り駅に着いた時、太陽は西に傾いて街全体がオレンジ色に染まっていた。

昨日の朝まで幸せに過ごしていたあの家に一人戻ることができなくて、下りたホームのベンチに座り、行き交う人の波を眺めていた。

電車が到着してはそれを見送り、涙を流しては手でゴシゴシと拭く。

どれくらいそうしていたのか、駅のホームには電気が灯り始め、その頃には、もう何も考えられなくなっていた。

涙の向こうにこちらへと歩いてくる人の影があり、

「ね、ね、彼女。ずっとここに座ってるけど誰か待ち?暇だったら気分転換に楽しいところへ連れて行ってあげるよ」

「・・・・」

「帰るところが無いんでしょ?おいでよ」

そう言うとその男は私の腕を強引に引っ張ってベンチから立ち上がらせた。

「い、痛い」

その手の痛みに初めて自分の置かれている状況を理解した。

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