光を掴んだその先に。




「じゃあおやすみっ!また明日!」



ちょうど部屋を出ようとしたとき、同じタイミングで使用人が那岐の夕食を運びに来た。

入れ違いで襖の先へと出る寸前、何かをボソボソつぶやいた那岐。



「…俺はお前が思ってるよりずっと一途だぞ」



なんて、言葉。

その“お前”は誰のことを言っていて、誰へと向けた言葉なの……?

使用人の老婆に向けたわけではないはず。


そうなると、私しかいない。



「あっ、そうだ那岐。怪我とかしちゃ駄目だよ…!」



横浜で何が行われているのか分からない。

那岐なら大丈夫だって思うけど、まだ全部を知っているわけじゃないから。

知らないことのほうが多いから。


こういう世界で彼等はどこへ向かっているのかも、どんなに残酷なことが行われているのかも。



「そりゃ俺の台詞だ。毎日心配なんだよ」



ため息を吐くように、だけど柔らかい顔は私にだけ向けてくれるもの。

私はそんな彼の顔が好きだ。


明日は絶対に最高な誕生日にしてあげよう。笑顔でおめでとうって言おう。



「…ったく、バレバレだっつうの」



そんな男のつぶやきは、背中を向ける私には聞こえていない───。



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