あの日の恋は、なかったことにして
【3】恋愛は、惚れたほうが負けである。
「ねー、パパ活してるってほんと?」

 お弁当を作る約束をしていた、最後の7日目。
 いつものように猪狩くんの朝食に付き合っていた私に、彼は屈託もなく聞いてきた。

「どこからの情報よ」
「ひみつ〜」

 情報の出どころを明かさないあたり、口がかたいというか、抜け目がないというか。

「パパと食事したっていうなら、ほんとだよ。ときどき奢ってもらってる」
「えー、俺ともご飯食べに行こうよ」
「いいよ」
「え? まじ?」

 猪狩くんからのデートの誘いをOKしたのは、じつはこれがはじめてだった。
 誰とでも気さくに話すことのできる私だけど、男の人とふたりきりで出かけるというのにはなんとなく抵抗があった。

 心を許したら、一気にハマりそうな気がするから。
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