ちよ先輩のてのひらの上。


「……あおい、先輩」


絞り出すように呼ぶと、先輩は眼鏡を外して、テーブルの上に置いた。

その仕草に、——思わず唇をすり合わせる。

先輩が私の頬を包み込み、満面の笑みを浮かべながら、顔を寄せてきた。


「もっと」


触れそうで触れないギリギリの位置まで近づいて、囁かれる。

頭の中が、じんわり痺れて——。


「……っ」


そっと掠めるように、唇が触れた。

けれどすぐに離れ、ちよ先輩が再び囁いた。


「ほら、はやく」

「……っ。蒼、せんぱ……っ」


応えるように開いた唇。

けれど、私の声はまんまとちよ先輩に飲み込まれてしまった。

埋まった距離と、差し込まれた温かくて柔らかい感触に、無意識に声にならない吐息を漏らす。

かき回すような甘くて優しいその動きに、とろとろに溶かされるような感覚が襲って。

私の頭は次第に、真っ白になっていった——。

< 213 / 225 >

この作品をシェア

pagetop