ちよ先輩のてのひらの上。


「どうして、教えてくれなかったんですか?」


ようやくキスの雨から解放されて、私は先輩を伺うように見た。


……あの男の子がちよ先輩だったなんて。初めて会った時に教えてくれれば……。

それか、初恋の話が出た時に言ってくれればよかったのに。


「……そらに遠慮してたんだよ。あいつ、あの時のこと根に持ってて。それで目の敵にされてたからさ」


ちよ先輩は、困ったように微笑んだ。


「変にヘソ曲げられて、邪魔されたら困るし」


……そっか……。
だから、『天敵』なんだ。

お兄ちゃんにとって、ちよ先輩が苦い思い出の相手なら、その表現に納得がいってしまう。


「それに、悔しかったんだ」

「……え?」

「入学式の日、ひなちゃんはちっとも気づいてくれなくてさ。お互い、公園で見かける程度の仲だったし、俺のことなんて忘れてるだろうなって思って」

「ち、違うんです」

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