世界でいちばん 不本意な「好き」


ずいぶん一方的だったと思う。あのあとの連絡だって避けちゃった。わたしが悪い。

わかってるけど、それでも、譲れない、揺るがない望みがある。



「ツキコ」

「……は、…」



突然名前を呼ばれて顔を上げると、桃花眼の目がこっちを強く見ていて、言おうと思った文句は飲み込む以外できなくなった。


右手をとられ、それがふみとの広い手のひらと重なる。

なにが起こるのか。なにをしようとしているのか。わけもわからずただその光景をなぞるように目で追った。



「「今幸せだって思えるのはきみがいるからだ。だから、その気持ちごと、きみを大切にしたい。これから先もずっと」」



あの映画の台詞を低い声がささやく。


「な、に……やめてよ急に、へんなこと…」


演技をしているのか、なんなのか。…だけど、吸い込まれそう。

まとう空気が天気の良い昼日中のようにあたたかい。



「こういうのに人一倍憧れてるのがアリスガワツキコなんだろ?」



かあっと顔が熱くなる。

手を振り払った表紙にお弁当がひっくり返った。


「あ、ごめん」


落としたのはわたしなのになぜかふみとが謝り、床に落ちたそれらを拾っていく。


「憧れてなんかない」


夢みてなんかいない。

そんな甘いものを望んでいるんじゃない。


正しいものが欲しい。
わたしにとって、正しいもの。

そこに憧れも夢もなくて、ただ、くるしまないためのひとつが、欲しいだけなんだよ。



「一番に好きでいてほしい、だっけ」


そうだよ。

とは、どうしてか言えなかった。


「そんな淋しくなるようなことにこだわるなよ」


その言葉に戸惑ってしまった。


< 152 / 314 >

この作品をシェア

pagetop