【短編】クロがないた日
ガランッと何かが崩れる音がした。
パラパラと何かが体に当たる。
だめだ、出なくちゃ。
ボクは頭を起こそうともがいた。
だけど、足も手も動かない。
みぃちゃん、ごめんね。
おばあちゃん、ごめんね。
ごめんね。

外が騒がしい。
近所の人が戻ったみたいだ。
「入ったらいかん、中はまだ・・・」
おじさんの声がした。
耳に、飛び込んだ声に神経が集中する。
「クロや、クロや」
「おばあちゃん!」
かすれて、声にならなかったかもしれない。
おじさんの止める声、何かを引きずるような足音。
ボクはもう一度叫んだ。

そのとき、ボクの上に屋根の残骸が、大きな音をたてて崩れてきた。
煙と灰と火の粉が舞う中で、ボクはおばあちゃんを見つけた。
その背中に火の粉をあげる材木を背負って、ボクを抱き上げていた。
すぐにおじさんが駆け寄って、おばあちゃんの背中を掃った。
おばあちゃんはボクを抱く手を離さなかった。
カサカサで、太くて短い、おばあちゃんの手。
ボクはその手にぴったりと摺り寄せた。
「生きててくれて、ありがとうね、クロ」
「ほんとにありがとう」
おばあちゃんは何度も何度も、そういって泣いた。

それから数日後、日本は終戦を迎えた。
政府の国民放送を聞き終わる前に、おばあちゃんは永い眠りについた。
ボクはいつものように寄り添って、一緒に夢の中へ旅立った。

あたたかな陽だまりが照らしている。
ぽかぽか気持ちのいい縁側で、おばあちゃんが待っている。
ただいまのかわりに頭を摺り寄せると、大きな手が応えてくれる。
ボクたちの宝物のような、あの場所は今もずっとボクの中にある。


=完=

下手で読みづらいところが多々ある中、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
新米なので、いろんなご意見ご感想を頂けると光栄です。
どうぞよろしくお願いします。
☆感謝☆


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