あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
俺からしたら、それはこっちのセリフだ。
人の土地に勝手に入って……。
どんなに幻想的な光景でも、不法侵入者と一緒に楽しむ気持ちなど持ち合わせてはいない。 
「そういう君は誰なんだ?」
声の感じは若いが、少し離れているため顔がよく見えない。
すると彼女の口から意外返事が返ってきた。
「ここは私有地ですよ。か、勝手に入らないでください」
し、私有地? 
ここは藤村さんという老夫婦の土地のはず。
どうみても藤村のおばあちゃんではない。
俺は誰なのか知りたくて彼女との距離を縮めるよう、一歩一歩近づいた。
そして数メートルのところで景色が一変する。
蛍が飛び交う川の周りに木は一切なく、空を見上げると月がこの場所を照らしているように輝いていた。
だが川の向こう側で警戒心剥き出しの女性が、後ろに一歩下がった。
まるで何かを庇うように。
だが、月明かりに照らされた女性の顔を見た瞬間、俺は自分の目を疑った。
それは俺がこの2年間探し続けていた女性だったからだ。
でも何で彼女がここに? 
あの日、あの店で会おうと約束したのに彼女は一度も店には来なかった。
探したくても、俺が知っているのは翼という名前だけ。
一体何があったんだ? 
いや、今はそうじゃない。
彼女は私有地と言った。ってことは藤村さんとは親戚に当たるのか?
頭の中が混乱して、何を最優先すべきがわからなくなっている。
どう話を切り出せばいいんだ?
心臓が痛いほどドキドキしている。
会えて嬉しいとは違う、怒りにも似た感情だ。
騙されたというほど、共に過ごした時間は長くはなかった。
だが、運命的なものを感じた。
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