あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
「もしも——」
『やっと出たのね』
由理恵の声はかなり不機嫌そうだった。
「すまない」
『まあ? 私と話なんかしたくないかもしれないけど……最低限の礼儀というものがあるわよね。何回かけたと思っているのよ』
相変わらず可愛げのない女だ。
これで彼氏が途切れたことがないと言うのだから、ある意味すごい。
「すまない。仕事が立て込んでて、電話に気づかなかったんだ」
『そう……。ところで急で申し訳ないんだけど、明日そっちに行くのでよろしくおねがいします』
「え? 明日?」
『あら、きて欲しくないって感じに聞こえるんですが』
確かに、翼のことが気になっているなかで、由理恵と会うのは気が重い。
「そんなことはないが、こっちにも予定というものがある」
『ですからさっき何度も電話したのに、悠一さんが全然出ないから……。とにかく明日十五時にそちらに着く予定で、数日お世話になります」
完全に事後報告だ。
だが、それよりも気になることがあった。
「数日というのは……民宿かどこかに泊まるってことなのか?」
『何言ってるの? あなたの家に決まってるじゃない。私たち婚約してるのよ」
由理恵のケラケラと笑う声に嫌悪感を感じた。
しかしなんのためにこの島に来るんだ?
「たしかにそうだが……一体何しに来るんだ?」
するとスマホ越しから大きなため息が聞こえた。
『前にも電話でいいましたでしょ? 結婚式の話し合いをしたいと。でも悠一さんは全然帰ってくる気配がないじゃない。だから私がそっちに行くの』
こんな時に結婚式の話なんて……こっちは白紙にしたいというのに。
でも由理恵にも彼氏がいたはず。
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