隣の部屋の新人くん
昼過ぎ、それぞれ用事を済ませて駅前で待ち合わせる。
坂口くんは漫画本の返却ついでに中古のゲームソフトを買ってきたらしい。
私は洗濯したり、トイレ掃除をしたり、ダラダラしてたらあっという間に午前が終わっていた。

休みの日の坂口くんは、髪の毛がセットされてなくてぺしゃんこで年齢不詳。
下手したら高校生に見えなくもない。

私と姉弟に見えるのかな、それでも年の離れた姉弟だ。

二人ともお昼ご飯を食べてなかったから、カフェで遅めのランチをする。

「一人暮らしってこんなに寂しいんですね」

突然サンドイッチを食べながら坂口くんがぼやく。

「そう?楽しいよ」

私はパスタをフォークに巻き付ける。

「俺、前寮に住んでたんですよ。いっつも誰かの部屋行ったり来たり、常に誰かといたから今すごく寂しいです」

「へえー」と私は巻き付いたパスタを頬張る。

「夜はもうOBとかゼミの奴らとぎゅうぎゅうになって遊んでたから、もう今一人の部屋がスカスカして」

坂口くんが続ける。

私は一人暮らしの、坂口くんの言葉を借りると「スカスカ」した感じが好きだ。
一人だけの自由な空間。
あの空間にぎゅうぎゅうなんて、考えただけで嫌。

「たこ焼きも毎週のように食べてました。たこパするよーってなると、俺も行くし、全然知らない人も来てるし、で結局朝までみんなでゲームしたりして仲良くなっちゃうんです」

知らない人とたこパできちゃうんだ。

なんて楽しそうな大学生活、と思う。

朝までゲームなんて、したことない。
私はそんな生活とはかけ離れた人生を送ってきた。

「たこパは魔法ですよ」

坂口くんは少し寂しそうな顔をした。

なんだか「東京はつまらない」と言われてるみたいで、ほんの少しだけ悔しくなる。

そんなに賑やかな毎日は送れないだろう。
みんなそれぞれの生活を慌ただしく送ってる街だから。

仕方のないことだけど、ちょっと、彼の東京サラリーマン生活をいいものにしてあげたいな、と思ってしまった。

よし、頑張ってあげよう。

私は、少しだけたこ焼きパーティーへのモチベーションを上げた。
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