想妖匣-ソウヨウハコ-

「どうやったら戻んだよ」

 二人が困惑して声が出せない間、明人は楽し気に微笑みを崩さず見続けた。

「あの、心の中にある匣って言うのは、一体……」
「そうですね。閉じ込めている想い、と言うのが一番簡単でしょうか」

 朱里の質問に明人は顎に手を当て、考える素振りを見せながら答える。すると、何故か彼は突然口を閉じ、目を細め二人を見た。その視線は何かを見定めているように鋭く、二人は身を縮こませてしまう。

「──貴方達にはまだ、少し早いかもしれませんね」

 一度目を閉じ、困ったような表情を浮かべた明人は椅子から立ち上がりドアへと向かう。その姿を、二人は唖然とした表情で追いかける。

「今日はこの辺でおかえり願えますか?」
「「え」」

 ドアを開け、外の風が明人の髪を揺らした。涼しく、気持ちがいい。
 明人は手を自身の胸に添え、二人を外に促すように腰を折った。
 
「また、この場所を思い出した時に来てください。その時は、しっかり名乗りますので」

 腰覆った明人を目の前に何も言えず、二人は言われた通り外へと出る。そのままドアは閉じられ、季津がドアノブをひねって開けようとするも無理だった。

「一体…………」
「なんだったの」

 明人が何を考えているのか分からない二人は、この場にいても仕方がないと思い、そのまま林の外へと歩き出した。
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