エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 ラピスラズリは幸運と知恵を授け、人生で迷った時、進むべき方向へ導いてくれる石。

 そんな言い伝えを鵜呑みにするわけではないけれど、基本的に弱気で自分の意見に自信がない私のお守り。触れていると冷静になって、頭の中がクリアになる気がする。

「……お姉ちゃん」

 私は顔を上げ、いつの間にか食事を再開していた姉に呼びかける。姉は私が今からなにを言うか察しがついているかのように、目元を緩めて「なぁに?」と聞いた。

「私、この契約、承諾しようと思う」

 分不相応な結婚だというのは百も承知。だけど、私はやっぱり社長が好きなのだ。

 いつも通りに片想いでいいと自分を殺してこの契約を断ったら、一生後悔する気がする。勇気を出して、片想いのままでは絶対に埋まらない距離を、飛び越えたい。それが、私の正直な気持ちだ。

「うん。叶未がそうと決めたなら、私も応援する」
「ありがとう」

 ホッとして微笑んでいると、姉がぐるりと部屋を見回して呟く。

「結婚するってことは、彼と一緒に住むのよね。私も新しい部屋探さなくちゃ」

 今のアパートの家賃は姉妹で折半しているため、ひとりで住むとなると少々高い。私のせいで姉まで住み慣れた部屋を出なければならないと思うと、申し訳ない気持ちになる。

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