エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

「そっか。その辺は契約内容に含まれてなかったけど、どうなんだろう……」

 社長の自宅は会社から徒歩圏内、南青山の一等地に建つマンションだとは聞いたことがあるけれど、きっと単身者用だよね。これからふたりで新居を探すことになるのだろうか。

「まあ、私も仕事があるしすぐには引っ越さないから、彼とゆっくり話し合いなさい」
「うん。決まり次第報告するね」

 結婚契約に同意すると決断したはいいものの、今まで淡い片想いしか経験したことのない私には、そういう具体的なプロセスをなにも想定できていなかった。

 まずはご両親に挨拶? それから入籍の手続き、住所の変更……彼と話し合わなければならないことが山ほどありそうだ。

 まるで二色を併せ持つバイカラージュエリーのように、私の心には期待と不安が入り交じる。それでも、初めて片想いを卒業したいと思えた、この胸の熱さを私は信じる。

 社長に返事をするのは月曜日だけれど、私は自分の覚悟が揺らがないようその日のうちに契約書にサインし、判を押した。 

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