カタブツ竜王の過保護な求婚

 しかし、その笑みにふと苦いものを滲ませる。


「宝石じゃなくて、がっかりしたか?」

「まさか! 本当に素晴らしい宝物です!」

「……そうか」


 小さく息を吐いたカインは、レイナの上気した頬にそっと触れた。
 あまりにも一瞬のことで、レイナの思考が追いつく頃にはもう繋いだままの方の手を引かれ、別の場所へと導かれていた。


「あそこに少し土地が空いているだろう?」

「あ、はい」


 カインが指差す方を確認して、レイナは頷いた。
 一区画分の土地が耕された状態で空いている。


「何かあそこで育てるつもりなんだが、何がいいと思う?」

「わたしが決めてもいいのですか⁉」

「ああ」

「それは……あの、一種類だけですか?」

「いや……品種にもよるが、ひとつに絞る必要はないと思う。ここの管理人と相談すればいい。あとで紹介する」

「はい! ありがとうございます! あの、それで、種蒔きとか……わたしも参加させてもらえないでしょうか? 見ているだけでも……」


 フロメシアの宮殿では絶対に許されない願いだ。
それでもここでなら、カインなら許してくれるのではないかと、わがままを口にしてみた。


「もちろん、それが望みならいっこうにかまわない。母上も妹のジェマも、ここにはよく出入りしている」

「本当に⁉」

「ああ」


 思いがけない、予想以上の言葉に、レイナは興奮して声をあげた。お淑やかな王太子妃はもはや姿を消している。
 しかし、カインは気にした様子もない。


「それと、これからは自由にここへ出入りしてくれ。私は……あまり時間が取れないから、侍女たちと入ってかまわない。今日だけは、二人だけの方がゆっくりできるかと思ったんだ」


 顔をそむけて言うカインの耳は赤い。だがレイナは、ぼそりと言われたことが嬉しすぎて気付かなかった。
 それからもうしばらくの間、レイナは夢見心地で二人の時間を過ごした。


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