カタブツ竜王の過保護な求婚

 カインは気遣わしげに、レイナの真っ赤になった顔を覗き込み、わずかに困惑した様子で離れた。
 途端に、レイナを寂しさが襲う。

 仕方なく抱きとめてくれただけで、本当は不快だったのかもしれない。
 唇を噛んでうつむいたレイナの目の前に、大きな手が差し出された。


「ここは、足元が悪いから」


 カインに笑顔を向けられて、胸の鼓動がますます速くなる。
 温かく優しい手に手を重ね、レイナは気持ちを預けるようにぎゅっと握った。
 心地良い沈黙のまま手を繋いだ二人は、やがて小さな林を抜けた。


「まあ……」


 思わず感嘆の声が洩れる。目の前に広がるのは、一面の畑。
 風に揺れる青々とした穂。土色の中に、ぽつぽつと鮮やかな色を添える芽吹いたばかりの青菜。収穫を待つばかりの春野菜たち。


「城で私たちの食事に出される野菜のほとんどが、ここで収穫されたものだ」

「こんな……こんな素敵な場所がお城にあるなんて……」

 レイナが呆然として呟く。


「ここは祖先たちが初めて開墾した土地なんだ。周囲を囲む高い壁は、侵略者たちを――人間だけでなく、害獣からも防ぐためにできたもので、今ではこの大きな宝を守る宝箱の役目を果たしている」

「わたし、聞いたことがあります。ユストリス王家の秘宝の話を。それは、とても大きな宝物らしいと……」

「別に秘密にしているわけじゃない。この国には金鉱山が多くあるから、いつの間にか話の方が大きくなってしまっただけで、古くからの臣下たちはよく笑い話の種にしている」


 声を抑えてカインは笑った。


< 101 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop