カタブツ竜王の過保護な求婚

 それからしばらく会話は続き、自室に戻る頃には太陽もずいぶん傾いていた。
 レイナは休むことなく、すぐに書物机に向かうと、カインへ五通目の手紙を書いた。


「――アンヌ。ラベロたちを呼んで来てちょうだい」


 手紙を書き終えたレイナは、隣室に控える騎士たちを呼ぶよう、アンヌに言い付けた。
 すぐに現れた騎士たち――レイナへと忠誠を誓い、フロメシアから付き従って来てくれた近衛騎士五人。その中で一番若い騎士に、しっかりと封をした手紙を託した。


「急いでこの手紙を、カイン様に届けて欲しいの。必ず直接渡してね。そして返事を欲しいと伝えて。お願いよ」

「かしこまりました」


 騎士は一切の疑問を口にすることなく拝命の礼をすると、レイナから手紙を預かった。
 そのまま旅支度のために、部屋から出て行く。


「気をつけてね」


 レイナはその背を見送ると、アンヌとノーラ、そしてラベロを近くに呼び寄せ、ひそひそと囁き始めた。
 それはレイナお得意の内緒話。フロメシア宮殿ではよく見られた光景だ。
 この後にたいていレイナは姿を消す。代わりによく似た少年が、宮殿主催の射的大会に出場していたり、王子であるレグルと遠乗りに出掛けていた。
 しかしそれを知らないメイドたちは、いったい何をしているのだろうと疑問に思いながらも自分の仕事に戻ったのだった。

< 122 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop