カタブツ竜王の過保護な求婚
動き出した陰謀


 その夜、レイナは王妃と晩餐を楽しんだ後、自室へと回廊を進んでいた。
 カインから手紙が届いた喜びはまだ消えず、先ほどは王妃に優しくからかわれたほどだ。
 姑である王妃は、レイナをジェマと同じ、本当の娘のように接してくれる。

 つくづく自分の幸運を噛みしめていたところに、甲高い声が聞こえ、一気に現実へと引き戻された。
 声をあげて駆け寄ってくるのは、モレト男爵夫人だ。


「妃殿下!」


 以前呼び止められたときとは違い、今の夫人はかなり切迫していた。


「男爵夫人? いったいどうなされたのです?」


 息を切らす夫人に、訝しげに問いかける。しかし、夫人はすぐに答えることはなく、辺りをきょろきょろと見回すと、声をひそめた。


「急ぎお知らせしたいことがあります。ですが、ここではなく、どこか人気のない場所でお聞きしていただきたいのです」


 男爵夫人がこれほどに慌てるのならば、知らせたいこととは一つしかないだろう。レイナは嫌な予感に背筋が冷たくなった。
 それでも、この時間に人気のない場所に移動することはためらわれた。


「妃殿下、お早く! この国の大事になるかもしれないのですよ!」


 もどかしげに夫人が急き立てる。わずかに迷ったものの、アンヌとラベロ、護衛騎士の二人を連れて、レイナは夫人の後を追った。

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