カタブツ竜王の過保護な求婚


「それに万が一、説得が上手くいかなくても、妃殿下をフロメシアへと無事に逃がして差し上げますから、戦火を恐れることはないのです。妃殿下もこの国に未練はございませんでしょう? 殿下の酷い仕打ちは城内でも噂になっておりますもの」

「……仕打ち?」

「ええ。フロメシアの王女様がこんな田舎にわざわざ嫁いでいらっしゃったというのに、殿下はまるで妃殿下の存在を忘れてしまったかのように振る舞っていらしたわ。しかも相変わらずお気に入りのバルセス公爵令嬢のカミーラ様と仲良くなさるなんて。それが、不仲説が流れ出した途端、わずかばかりの時間をご一緒に過ごされて誤魔化されただけ。しかも今度は別の女性の許に行かれるとは……。侮辱なさるにも程があります」

「そんなことは……」


 間違いだと否定しようとして、レイナはためらった。
 その迷いに気付いて、夫人はまた厭な笑みを浮かべる。だが、レイナの返答は夫人の望むものとは違った。


「やはり一番の解決策は、このことを陛下にお伝えすることです。今から一緒に来ていただいて、夫人が陛下に説明申し上げればきっと――」

「いいえ、一緒に来ていただくのは、妃殿下、あなたの方です」


 レイナの決意に満ちた返事は、夫人に遮られてしまった。驚きながらも、再び伝えようと口を開く。

「ですから、それは無理だと……」


 恐ろしい形相で夫人に睨まれ、レイナの声は弱々しくなっていった。
 室内に緊張感が漂う。今まで黙って控えていたアンヌが、レイナを庇うように前へと足を踏み出し、ラベロがいつでも抜けるようにと剣に手をかけた。
 夫人はそんな二人を見て、にっこり笑った。

< 140 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop