カタブツ竜王の過保護な求婚

 フロメシア王は――この条約が締結され次第退くことになるラクスはそれでもまだ足りないと言う。
 そもそも交渉はもうすぐ即位するレグルたち新首脳陣たちと行われていた。

 ここでラクスが口を挟んでくるのは、そもそも条件を反故するも同然である。
 フィルは庭園を再度見渡し、ため息を飲み込んだ。

 交渉のためにフィルたちが滞在している間、フロメシア宮廷では華やかな宴が繰り広げられていた。
 交渉団をもてなし、少しでも心証をよくしようとの考えだったのだろうが、フィルたちの心は冷めていくばかりだった。

 今、ラクス王が口にしたように、フロメシアの民は貧困に喘いでいる。
 それなのに宮廷の者たちをはじめ、貴族たちは変わらぬ贅を尽くした生活を享受しているのだ。

 新国王となるレグルはまだ若く、経験不足は否めないが、それらを是正してくれるだろうとの期待は交渉の段階で持てた。
 レグルがラクスたちに対して苛立ちを感じていることは傍から見ていてもわかることだった。
 だからこそ、全権を一任されていたフィルは従属を求めることをしなかったのだが――。

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