カタブツ竜王の過保護な求婚

 気まずい沈黙が漂う車内には、沿道の人々からの歓声がことさら大きく聞こえていた。
 新しく完成した国立医療院の開院記念式典に出席する王太子夫妻を喜んで迎える人々が集まっているのだ。

 レイナははじめ、医療院と聞いてもよくわからなかったのだが、貧しい人でも医師の治療を受けることができる施設だと教えてもらい、非常に感動した。
 さらにそれが都のセロナムだけでなく、各地に点在していると知り、ユストリスの強さの一面に気付いた。民を大切にする国は、民からも大切にされているのだ。

 人は――獣人もおそらく大切なもののためになら、強くなれるのだから。
 やがて馬車は目的地に着き、一段と大きくなった歓声と厳重な警備の中に、二人は姿を現した。
 厳重な警備を敷かれているのは人間に反発を持つ者がいるかもしれないとの配慮だった。

 ところが、先に降りたカインの手を借りてレイナが降りると、色とりどりの花びらが投げかけられる。
 それは花嫁への祝福であり、心からの歓迎でもあった。
 婚礼の日以来、触れることのなかったカインの重ねられた手を、レイナは無意識にぎゅっと握った。

 たとえ望まれた花嫁でなくても、番ではなくておも、これほど多くの民が喜んで迎えてくれるのなら、その気持ちに応えたい。
 そう強く願うレイナをまるで励ますように、カインの手にも力が込められる。
 二人はこの日、ずっと手を繋いだままだった。


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