カタブツ竜王の過保護な求婚

「カイン様、今日は本当にありがとうございました」


 興奮の残るままにレイナがはずんだ声でお礼を言うと、カインはそっけなく「ああ」と一言答えただけだった。
 それきり馬車の中は沈黙に包まれる。
 とたんに興奮も冷め、レイナは気落ちしてうつむいた。

 先ほどまでの慣れない公務では多くの獣人に囲まれて戸惑いも大きかったが、カインがずっとそばにいて手を繋いでいてくれたおかげでやり遂げられたのだ。
 行きとは違い、なぜか二人きりになった帰りの車内でその気持ちを口にしたのだが、伝わらなかったらしい。
 目の前に座るカインは、まるでレイナの存在を忘れてしまっているようだった。


(やっぱり私が番ではないから……。殿下は今、カミーラ様のことを想っていらっしゃるのかしら……)


 行きの馬車の中でも、何度も訊ねようとして思いとどまった言葉がぐるぐると頭の中で回る。
 ――情勢が落ち着いたら離縁して、カミーラ様とご結婚されるのですか、と。
 だが返事が怖くて訊けないでいた。

 さらにレイナの口からこぼれそうになる言葉を必死にのみ込む。
 ――どうか捨てないで。番でなくても、お飾りでもいい。私を傍に置いて。
 プライドも何もない言葉だけれど、それでもきっとカインにとって迷惑な願い。
 震える唇をかみしめて、レイナは膝の上の両手をかたく握りしめていた。

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