シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
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でもちょっと心配になったのは菜摘のほう。
わたし菜摘と血が繋がってるのかな、なんて⋯⋯ って思って。
どうしよう、ってよぎったりして。

ちょっと心配でよくよく聞いてると、菜摘にお兄さんがいる。あやしい。

弥勒にはいっぱい親戚がいて、覚えられないぐらいだから、菜摘の方のおじいちゃんは? って聞いたら、

《交通事故で、わたしが中学の時に死んじゃったんだよ》

って教えてくれた。
毎年、弥勒と3人でお墓参りに行くけど、それがおじいちゃんとおばあちゃんだった。

《ふーん、大変》

って言ったら、

《そうだよ。大変だったよ》

って言ってた。

弥勒と菜摘が死んじゃったら、流石に、大変じゃ済まない。
そういう事だよね。

菜摘のお兄さん、つまりおじさんは、記者で、10年前から家族でタイに住んでいるので会っていない。

菜摘はこのお兄さんにおじいちゃとおばあちゃんが死んだ後、弥勒に会うまで育ててもらったらしいんだけど、菜摘の口調に、世話になった、ありがたかった、ただ1人の肉親、という感情の他に一個含まれていることに気がついた。
表すとすれば、

『もう、しょうがないな! 』

ってかんじ。
菜摘からはおじさんが記事を書いてる情報誌を見せてもらったりした。
海外に住んでていかに楽しいか、っていうちょっと無責任な記事。
だから、弟の四狼(しろう)を頼まれて、なのに無責任にイヌに子守させて、自分はお昼寝しちゃって。目が覚めて、あっ、と気が付いた。
お父さんだ。

そうすれば、すべて腑に落ちる。

マリアおばさんと、おじさん、私この2人の子だ。
それで、弥勒と菜摘は出会ったんだ。

弥勒も、ちょっとうっかりだから、私を可愛がる時《愛のキューピットだ》っていうんだ。
顔が人形に似てるとか、親バカの天使みたいに可愛いのたぐいも含まれてるけど、あれは菜摘とのキューピットってことなんだな。

わたし、いい仕事してるじゃない。
生まれた時から。

弥勒と菜摘はベタベタに愛し合ってて、いや子供にもバレてるよって、甘々だよって、見ないフリしてあげてる。

その出会いが私なら、とっくに生まれてきた意味があるってもんだ。

5万円。

なぜかわたしに贈られてるお金。
月に5万円。

赤ちゃんの時から、それはずっと。
菜摘が毎月見せてくれて、毎月死んだおじいちゃんからだからね、と言う。

妹の二子や三子、弟の四狼はどうだか知らない。
わたしと菜摘の話だ。

正直その金額がどうかはわからないけど、普通からしたらな、つまり、収入のパーセントからしたら、まぁ、結構大変かも。いろいろ思うところはある。全額ためてる。

普通の収入って菜摘のお兄さん。
[子供たち日本語忘れた!!!オレらタイ人になったな!!!]とかバカげた手紙がたまに来たりしている。
普通の人で、弥勒はすごいお金持ちなのに、[むしん]してきたことはない。むしんて、お金をもらうことだ。そこはエライかな。
無責任なのに情があつい。

そこだけは、泣きたいぐらい、いいことだと思う。

つまりはわたしは安心していいんだ。

わたしは弥勒と菜摘の子供だから。

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