シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



もともとオレ様な櫂は、発言が的外れだと言われたり、自分本位だと多少のいざこざはずっとあったそうだ。

私学の大学まで続いている良い学校に通っているが、櫂くんほどの桁外れのお金持ちはそうはいないだろう。

それでも、まぁ、呼び出されたり注意を受けたりしながらも、本人は張り切って登校していた。

ところが一週間ぐらい前。

同級生の女の子が、お兄ちゃんからもらったノートを櫂が取り上げて、ふざけて逃げ回ってるうちに池に落としてしまったそうだ。
かわりに、高価なノートをダンボール一箱とそのほか宝石のついたネックレスや取り寄せたお菓子を贈りつけて謝罪の気持ちを表したら、その女の子の両親が怒鳴り込んできて全部返品されたそうだ。

女の子も口を聞いてくれなくなり、周囲も櫂君がわるいよね、って雰囲気になったそうだ。


「何が悪いんだ! 」


と父親である不動お兄さんが口を挟んだ。


「そうやって、気持ちを形にしたのに!
全くあの子の両親は、カイの気持ちを踏み躙って! 」

「あー、あの子か」


と弥勒も横から言った。
みどりさんが、


「実はね、どうやら櫂は、その子がずっと好きなのよ」


ひえ! なんか、いろいろややこしい話だ!
親まで登場して、こじれてる!


「だから、余計落ち込んで⋯⋯ 」

「あの子の家に行って脅して婚約でもさすか? 」


うわっ。不動お兄さん! まだ5年生! それ以前にそれはダメですよ! と菜摘は思ったが、


「そうだな、それが早いかも」


と弥勒まで、真面目に言っている。


「やっぱり徹底的に弱みを調べ上げて、有利に交渉しなきゃ⋯⋯ 」


とみどりさんが、真剣に言う。


「まって、まって! その前に、わたし、わたしがカイくんと話してみます! 」


うわ〜っと超お金持ち思考で盛り上がるこの人達を、ここで一般常識で冷静にさせるのは菜摘しかいない。


櫂は、みどりさんが仕事に行ってる時間、しばらく弥勒の家に遊びにくることになった。


< 8 / 72 >

この作品をシェア

pagetop