ごく普通の小市民のちょっとした正義感と真実の愛とあとなんだっけ


 ごくごく当たり前の政略結婚をして当たり前に子供を産んで、身分に合わせた社交をしてとくに何もなさずに死んでいくのが大体の貴族女性の生涯だ。

 政略とはいえ本当に愛し合っている夫婦もいれば、ビジネスパートナーとして最高の相性であり互いが才能を如何なく発揮する夫婦も知っている。

 貴族女性の幸せは、良い身分の男性に嫁いで子を成すこと。



 そんな前時代的な思想の生きる世界に転生した私はヒロインでも悪役令嬢でもまして勇者でもない。そもそもここは乙女ゲームの世界ですらないと思う。

 ごく普通の、中世っぽい世界だ。元の世界を地球と呼ぶならここは地球じゃないどこかだ。

 ここがなんていう名前かは知らない。惑星とか天動説とかはこの世界の学問ではお目にかかってない。



 イース・アランスタイン。昨日十五歳になったばかりだ。



 と言っても中身は地球で事務職やってた成人女性だ。少々オタクっぽいことを除けばとくになんの変哲もないどこにでもいる感じの人間だったと思う。

 すれ違っても数秒後には顔を忘れるような、害のない平凡さを持つどこにでもいる社会人。
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