春は微かに
人間関係にうんざりして、面倒ごとは避けたくて、先生 なら、何も考えずにいられると思った。私に必要以上に干渉してこない先生といるのが楽で、教室で上辺だけの友達と中身のない話をするより、此処で先生の解答を聞く方が楽しかった。
私の人生は、先生といれば失敗しない。先生といればキラキラしている。卒業した時のことなんて、その時考えればいい。私の将来は先生に導いてもらうのが最適だ。
先生は「先生」であり、それ以上にも以下にもなれないことはわかっていた。欲しい答えをくれないことも、十分分かっていた。
「授業だけじゃない。…例えば、好きな人ができた時。何もしなかったら変化なんて起こらないだろ」
頷けば、彼はまたひとつフルーツ飴を取り出して口に含んだ。数秒舐めて、それからガリっと噛む。飴の味わい方さえも、私とは全然違うのだ。
頬杖をついた先生が、私を見つめている。
「振られるのが怖くて何もしないまま誰かに取られたら、それこそ人生失敗したと思わねえ?」
彼はどれほどの経験があるのだろう。先生の人間関係も生き様も、私は何一つ知らない。
そんなに年が離れているわけではないのに、彼の言葉には、私が今まで関わってきた大人の中で一番重みがあり、私の心を動かすのだ。