春は微かに
「簡単に安全牌を選ぶなよ」
「……、それは、つまり」
「失敗は限界を自分で決めた時に起こるもんなんだよ。何かを間違えたくらいで人生失敗したなんて嘆くの、くだんねえだろ」
ずっと、間違えることが怖かった。年頃の友達関係にうんざりしたなんてそれっぽく言っていたけれど、本当は臆病だっただけだ。
友達には嫌われたくなくて、けれど完全に距離を置くのは気が引けた。いつだってその場の正しい選択ができる自分でいたかっただけ。
寂しかったのだ、ずっと。
失敗して、1人になって、寄り添える人間がいなくなるのが寂しくて、怖かった。
今までずっとそうやって来たから、頼れる場所がどんどん少なくなって、そして私は、先生という安全地帯に逃げ込んだのだ。
「間違うことが失敗だと思ってんのか?まあお前、生意気なくせしてヘタレだもんな」
「……そ、んなことは」
ないと言えるのだろうか。「相談があるんです」なんて言っておいて、彼の答えが欲しいなんて言っておいて、図星を突かれて返す言葉を見失っているのは、紛れもなく生意気なくせにヘタレな私だ。
気まずくなって俯けば、そんな私に先生は再び飴玉を差し出した。元気出せよってことなのかもしれない。
「あのな、間違うことは失敗とは言わねえぞ。んな事言ったら世の中敗者ばっかじゃねえか」
口に広がるリンゴの味は、甘くてあたたかかった。