アンチテーゼを振りかざせ




男はそのまま、黙って真っ直ぐに私を捕らえる。

名前を呼ばれてからずっと、心臓が慌ただしく動く感覚があって、逃げるように私が先に視線を外した。




「なんで、来ないの。」

だけど、それを許さないとばかりに直ぐに言葉を放つ男の声は、いつもよりどこか鋭い気がする。





「……なんでって、」

「コンビニに行くのは、
紬のルーティンに入ってたんじゃ無いの。」

「……、」


私は、あの日から1度もコンビニを訪れていない。

元々毎日行ってたわけでも無いけれど、1週間で1度も行かないことは、今までに無かった。




“_____梓雪。“


だけどあの光景を思い出すと、どうしても足は止まる。

この男がいつシフトに入ってるかどうかなんて知らない。

でも、もし出会ったら。


その続きを考えたく無くて、掻き消すように仕事後に干物化しても部屋で過ごす日々だった。




「あの日、休憩中も結局来なかったし、その後も。
仕事が忙しいのかと思ってたけど。


…さっきの電話、男?」


今日出会ってからずっと、男の声は瞳に負けないくらい鋭いままだ。

いつもの揶揄う様子なんて微塵も無くて、そのことに余計に胸が、ジリジリと焦がされる。




「……関係、無いでしょ。」


突き放す類いを選んだくせに、少し震えて頼りなく夜に落ちた言葉。


男は体勢を変えないままに、また口を開く。


「まさか、ビールも辞めたとか?」

「、」

「この間、言ったよな。
"カルピスサワー"ばっかりは飽きるって。

そいつは、紬が本当に好きなものを我慢しなきゃいけない奴なの?」


南雲さんが、そんなこと要求する人じゃ無いことはもうとっくに分かってる。


____"私が"、言えないだけだ。


< 100 / 203 >

この作品をシェア

pagetop