アンチテーゼを振りかざせ
"とりあえずまた、連絡する。"
そう言って切れたスマホを握ったまま、その場に暫く立ち止まっていたけど。
私はずっと、何を悩んでるの。
何も困ることなんて無いでしょう?
頭でそう理解しようとすればするほどに、上手くコントロール出来ない感情がそれを邪魔する。
そうして自分のすぐ隣に位置するガードレールが視界に入った瞬間、ここにもたれかかっていた"誰か"を、簡単に思い出しそうになっていた。
振り切るように、足を再び踏み出そうとした時。
「______紬。」
「っ、」
まるで私の抵抗を知っているかのようなタイミングだった。
背後から聞こえた声に、心臓が大きく跳ね上がる。
ゆっくり振り返ると、ゆらりガードレールにもたれる人影。
車道を車が通っていく瞬間に、ヘッドライトはそれを容赦なく照らす。
夜の闇に溶けない、白に近いアッシュの髪。
黒のアノラックパーカーのポケットに両手を突っ込んで、スポーティなスニーカーを履いた片足を、器用にガードレールに引っ掛けている。
こちらを見つめる三白眼が、光を取り込んで向ける視線は、何故か今までで1番、鋭く見えた。