アンチテーゼを振りかざせ




《今日、終業後に少しお時間をいただけないでしょうか。》

枡川さんと予定を決めた後、私はずっと連絡を出来ずにいた南雲さんへ、メッセージを送っていた。


「…突然、すみません。」

「ううん、全然。この後、枡川と約束してんだって?」

「あ、はい。ご存知でしたか。」

「瀬尾が、枡川に飲みにいくのドタキャンされたってぼやいてたから。」



……それは、知らなかった。
枡川さん、先約があったなら別の日でも良かったのに。

瀬尾さんに申し訳ないな、とは思いながらも、リーフレットをそこまで楽しみにしていてくれたのかと顔がほころぶ。

 
そしてそんな後輩達の話を楽しそうに語る南雲さんは、荷物も何も持たず、手ぶらの状態だった。


「南雲さん、随分身軽ですね…?」

「え?……ああ、違うよ。荷物はまだフロアにある。
この後もまだちょっと仕事残ってるから。」


「そうだったんですか…?
そんなお忙しい時にわざわざお呼び立てして、ごめんなさい。」

瞳を細めて微笑む彼に謝罪しても、彼は気にして無いと首を横に振る。


そして。


「……保城さんの話は、多分そんな良い話じゃないだろうから、今日は多めに残業でもしようかなと思って。」


そのままこちらへ届いた言葉に、私は彼と同じようには、微笑みは返せない。


お気に入りのハンドバッグを握る手に、力が入る。




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