アンチテーゼを振りかざせ



今日は居酒屋にいる時からとっくに泣きっぱなしで、
精一杯の力で走ったことも相まって頭が割れるような痛みを中から発し続けている。



涙を溢すのと拭うのを繰り返した顔はぐちゃぐちゃで、化粧もきっと殆ど残っていないし、コンディションとしては最低最悪を確実に記録しているけど。




___この男の前では、

そういう自分でも、もう良いって思うから。




「私、梓雪の前では、ぜんぶ、見せたい……っ、

本当の私は、
干物だしおっさんだし、部屋も綺麗じゃ無いし、
全然うまく笑えなくて面倒かも、しれないけど、

梓雪の前では、ビールもサキイカも、
もう絶対隠したりしたく無い…っ、」



しゃっくりと共に泣きじゃくった声は、
まるで子どもみたいだった。

告げた言葉も、何だか脈略の無い単語ばかり並べてしまった気がする。


だけど。

その恥ずかしさより先に、
この男に向かう気持ちを止められない。



こんなに誰かに
自分から手を伸ばしたことは、無かった。



"自分が好きなものを一緒に飲める人も、
飲みたいと思える人も、全部。

___自分を曝け出したいって思う瞬間は、
紬のタイミングで、これからいつでも、ゆっくり決めれば良い。"



あんなに嬉しい言葉、無かったの。



< 138 / 203 >

この作品をシェア

pagetop