―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
これまで見たことのない沈んだ顔をし、どうしたの?と聞いてもなんでもないと無理して笑い、ビール飲んで帰ろうかと誘っても「今日はいいや」と理由も言わずに先に帰ってしまった。
そんなことはこれまでにないことだった。
やっぱり龍道コーチが自分と付き合うことがショックなのだろうと、思わず重い吐息を吐く。
田淵は透子が思っている以上に真剣に龍道コーチのことが好きだったのだ。
それなのに自分の気持ちにいっぱいいっぱいでそんな田淵の心を思いやれず、透子は図々しく龍道コーチとのことを相談したりした。
さらに落ち込んで泣き、そんな透子を田淵は励ましてくれた。
自分の無神経さに透子はまた大きなため息をついた。

「どうしたんだよ。まさか昔振られた会社の先輩のこととか思い出してるわけじゃないよな」

つないだ手をギュギュっと強く締め付けられた。

「違うって、痛いって」
「じゃあなんで出会いの場所でため息なんてつくんだよ」

透子は田淵の沈んだ様子を話した。
少しためらったが田淵はゲイで龍道コーチのことが好きだったに違いない、だから彼が落ち込んでいるのはきっと透子が龍道コーチと本当に付き合うことになったからだと自分の考えを聞かせた。

しかしその話を聞き終えた龍道コーチは「そんなわけないだろ」と、飽きれた目で透子を見た。
容姿端麗の上に裕福で、恋の悩みなど経験したことがないだろう龍道コーチにはきっとそんな気持ちがわからないのだと透子はムッとし、「そんなわけあるのよ。龍道コーチと違って私には失恋で落ち込む気持ちがわかるもの」と、頬を膨らませた。
< 124 / 130 >

この作品をシェア

pagetop