―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
ずらりと並んだ初級クラスの受講者の名札の中で、中級の緑のラインが入っているのは当然ひとつだけだ。
すぐに自分の名札を見つけた田淵は「じゃ、後で」と、更衣室に向かっていった。
透子は自分の名前を探して名札の上に視線を這わせた。
次々と生徒がやってきて、透子を押しのけるようにしてカウンターの前にたち、先に名札を見つけて去っていった。

「はい」

マヤさんが自分の目の前にあった透子の名札をつまんで差し出す。

「有難う」
「ねえ、私のフェラーリ、乗り心地よかった?」

ギクッとしてマヤさんを見ると、さらに「パティスリーサヤのケーキ、おいしかった?」と、わざとらしく目をぱちぱちさせた。
さてどう反応したらいいものか。
マヤさんが「龍道コーチと関わると面倒なことになる」と忠告してくれたのは、もしや自分の男に関わるな、という警告だったのか。
となるとこの流れは警告に背いたことになり、不快に思っているという展開になる。
いくら訳ありで付き合えないとしても、いや訳ありで付き合えない男だからこそ、ほかの女にちょっかいを出されるのはいやだろう。
といっても別に透子がちょっかいを出したわけではない。
たまたま昔、龍道コーチを助けてそのお礼をしたいといわれただけだ。
< 44 / 130 >

この作品をシェア

pagetop