―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
偽りの交際宣言
B2の駐車場でエレベーター降りるとマヤさんは赤いスポーツカーの車の前に立ちロックを外した。
昨日、龍道コーチに乗せられた車だ。

「うぉっ、すごい!」

田淵は赤く艶々光る車体の周りを目を輝かせながら1周して眺め、「この車スパイダーマンみたいな顔してんな」と子供みたいにはしゃいでいる。
昨日は慌ただしく乗車するはめになった透子も改めて車を眺め、「すごい車ね」と驚くと、「昨日も乗ったよね?」とマヤさんから突っ込まれる。
車の反対側から車内をのぞいている田淵に会話は聞こえていない。

「車をちゃんと見ている余裕はなかったの」

ふうんと興味なさそうに言ってマヤさんが運転席に体を入れると、すかさず田淵が助手席乗り込んだので、透子は後部シートに座った。

シートベルトをしてエンジンをかけるとマヤさんはかぶっていたウィッグを外し、後ろに投げてきた。
田淵はえ?という顔をしたが特に言及はしなかった。
艶々のボブのウィッグが透子の隣に着地する。
マヤさんの本当の髪は栗色のショートカットで、金髪のボブなんかよりずっと自然で愛らしい顔立ちに似合っていた。
見とれているうちに車が走り出す。
細い道を滑らかに抜けて街道を走り、高速に入るとスピードがグンと上がった。
無駄のないハンドルさばき。
車にあまり乗らない透子にもマヤさんの運転技術の高さがわかる。
田淵はたまに「うぉぉー、かっけええ」と声を漏らしながら喜んでいる。
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