―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
しかしどうして勝手に家に入るのだ。
一応女性の家に。

わざわざ届けに来てくれたのは親切だけど、まずチャイムを鳴らすのが普通ではないか、そう言ってみると、「電話したけど出ないし、チャイムを鳴らそうとも思ったけど、鍵があるんだから鍵で開けて入ればいいかなって」、という説明だった。
そして「その方がサプライズだろ。目覚めたときに俺がいたら嬉しいかと思って」と、マジな顔で言う。

「あのね、恋人同士じゃないんだから、ふつう嬉しいよりもびっくりしちゃうよね」
「そうかビックリするほど嬉しかったのか。ま、そんなことより天気もいいし出かけよう」

恐ろしくポジティブな解釈をして、龍道コーチは開け放した窓の外に目をやった。
どしゃぶりの雨に塵が洗い流されたのか、冴え冴えとした真っ青な空が広がっていた。
確かに家にいるのはもったいないと思わせるに十分な晴天だ。

「残念だけど、仕事があるのよ」
「どんな仕事?」
「統計データをグラフにして売り上げ傾向をまとめる、みたいな」
「やってやるよ。俺の方が早い」
「でも会社の内部情報を見せるわけには」
「売り上げデータなんて大した情報じゃないじゃん。とりあえずグラフだけ作っておくからデータ出して」

そう言われれば、あとで外部にも資料として出すようなものだ。
透子はPCからデータの場所を開いた。
1か月の売り上げデータから週ごとでの状況や、種類や年齢層、男女、家族形態、用途などの角度から統計をまとめてグラフにしなくてはならない。
エクセルに慣れていなければできない作業だが、できるかと聞くのもはばかられ、「これ」とページを見せて、透子はちらりと龍道コーチの様子をうかがった。
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