―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
「マジになると後がつらいよ」
「1か月だけ付き合う? なにそれ」

ランチを取りながら昨日のいきさつを透子から聞いていた田淵は、レタスを束で刺したフォークを口に運ぶ途中で止めて眉根を寄せた。
サラダバイキングが女性に人気だというこのベジカフェは、「最近肌の調子がいまいちなのは野菜不足だと思うんだよね」と、田淵が選んだ。
会社近くの定食屋の生姜焼き定食を思い浮かべていた透子が異議を唱えると、「これ」と、おでこの吹き出物を指さされ、しぶしぶ従った。

男性客は田淵のほかにはもう一人だけ、スーツ姿の若いサラリーマンが、皿に山盛りにしたサラダを食欲旺盛な草食動物のようにせわしなく口に運んでいた。

「あのパーティーからの成り行きで」

透子はまずパーティで先に帰ったことを謝り、その後ロビーに現れた龍道コーチに家まで送ってもらったこと、部屋まで連れ帰ってもらったが寝てしまった透子を置いて鍵をかけて帰った龍道コーチが翌日鍵を返しにまた家にやってきたこと、一緒にでかけて急遽、龍道コーチの両親と顔合わせをさせられて、嘘がばれないように1カ月間だけ彼女になる羽目になったいきさつを説明した。

「本当に好きになっちゃったらどうするのさ」

田淵はレタスを口に入れて、シャキシャキと爽やかな音を漏らした。

私が? 龍道コーチが? と聞こうとしたが、龍道コーチのわけはないなとすぐに悟り「可能性がない人は恋愛対象として考えないから大丈夫」だと答えた。
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