夢幻界〜Welcome to the world of dreams.〜

「あなた……、誰?」

「え?」

「私はカズサじゃないわよ? 誰かと人違いしてるんじゃない?」

「……??」

 何が起こっているのか理解できず、私は茫然とした。

 困惑の笑みで通り過ぎる彼女は、至ってまともで、演技をしている風ではなかった。

 どうなってるの? 和沙が和沙じゃなくなってるなんて……。

 そのまま会社を出た私は、当てもなく歩き始めた。

 昨日まで私の知っている世界が、今日になって様変わりしている。パスケースに社員証はないし、同僚が見知らぬ人に変わっている。

 私だけが社会から一人、切り離されたみたいな……。

「……涼ちゃん」

 言いようのない喪失感に駆られ、鞄の中から慌ててスマホを取り出した。

 電話のマークをタップし、急いで彼に電話を掛ける。プルルルル、と規則的に鳴るコール音を何度も耳に流すが、私の大好きなあの声には繋がらない。

 そんな。どうしよう……。

「涼ちゃんにまで知らんぷりされたら、私……っ」

 待ち受けにした彼の写真を見つめながら、私は決心した。

 こうなったら直接会いに行こう。会社には行けなくなったから時間はたっぷりある。
< 11 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop