偽りの夫婦
「うん」
なんか陽愛の様子がおかしい。
「何?まさか口説かれた?」
「違うよ!口説かれたってゆうか、食事に誘われただけで…でも、私がってゆうか私達にだけど」
「それ…口説かれてるじゃん!」
「でも、普通にみんなで食事に行こって言われただけだから」
必死に弁解をしている。

でもあのメールのことを考えると、陽愛を狙ったとしか思えない。
「とにかく、絶対行っちゃダメだからね!」
「うん」
「でもさ…」
「え?」
「許せないよな……メール報告必須だって言ったよな?」
紫龍が陽愛の口唇を、親指でなぞる。

「キスして?陽愛」
「え?」
「俺のご機嫌…直して?」
「ん……」
陽愛の可愛い顔が近づき、口唇が重なる。
深くなって、先程陽愛が食べていたコーンスープの味がする。
ただひたすら、陽愛の口唇を貪る紫龍だった。

陽愛の目を優しくなぞりながら、
「陽愛の目が俺しか見えなくなったらいいのに……」
そして耳に触れ、
「陽愛の耳が俺の声しか聞けなくなったらいいのに……」
そして口唇をなぞり、
「陽愛の口が俺の事しか話せなくなったらいいのに……」
と陽愛に重たい愛情を語る。
これは紫龍が、いつも陽愛に言い聞かせている、口癖のようなものだ。

「いい…よく聞いて?
陽愛は、俺しか受け入れられないんだよ。
わかった?
陽愛は…
俺しか…
受け入れられない」
陽愛の目をジッと見つめ、言い聞かせる。
「うん…」

それはまるで、催眠術のようだ。
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