研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
狭い店内。
薄汚い壁。

結構な人で埋まってる。

カウンター席に並んで座る。

高尾さんが「すみません、生二つ」と店長に言って、おしぼりで手を拭く。

「ビール飲めるよね?」

遅れて確認してきた。

「はい、好きです」

そう言うと、安心したように笑った。

お通しの胡麻豆腐と、漬物が運ばれてきた。

「俺、この漬物も好きなの」

そう説明してくれてる間に、目の前にビールが置かれる。

「はい、論文おつかれ」と乾杯してくれた。

「毎日毎日書いてるんじゃない?」

そう言って笑う。

「毎日12時間は研究室います」

私の言葉に、高尾さんは「うーわ」と言いながら続ける。

「でもさ、好きなこととことん出来てるのって羨ましいよ」

私はその続きを伺うように顔を覗く。

「それが仕事になった途端、時間と結果が求められて、鶴の一声でゼロからやり直しで」

そう言ってフワッと笑う。

「ごめん、愚痴って」

熱々のモツ煮が運ばれてきた。

「これこれ」

そう言う横顔は嬉しそう。

こういう暖かいメニューが美味しい季節になってしまった。
こってりとした香りが私たちを包む。

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