研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
床の上に並んで座る。
ギュッと自分の膝を抱える。

テレビもついてない、何の音もしない部屋の中。

私が先に沈黙を破る。

「理仁の気持ちは固まってるんでしょ?」

理仁が小さく「うん」と答える。

「研究で食ってくって、難しいことなんだよ」と理仁。

「分かってる」

分かってる。

私は全部分かってる。

理仁のプランが最適なことくらい。

「環はどうすれば不安じゃないの」

理仁が床をいじりながら聞いてきた。

私は不安なのかな。

何が不安なんだろう。

理仁がアメリカに行った先を考えてみる。

きっとそこで理仁はイキイキと過ごしている。
充実した日々を過ごしている。

でもそこに、私はいない。

私はゆっくり口を開いた。

「理仁が全然知らないところに行っちゃって、全然知らない理仁が増えていくのが嫌」

言っておいて、自分でも幼さを痛感する。

こんな時、考えてしまう。
きっと勝田エリーなら、気持ちよく背中を押し出している。

それも笑顔で。

私はそれができる女じゃない。

少しの沈黙の後、理仁がポツリと感情のこもらない声で言う。

「じゃあ、環も一緒に留学したら?」
「できるわけないじゃん」

私の口から吐き捨てるような言葉が出る。

「じゃあ学生結婚でもする?」

無感情のプロポーズ。
言ってる本人が、一番する気ない。

「セックスすらしたことないのに、結婚なんて考えられるわけないじゃん」
「じゃあ今すぐしようよ、セックス」

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