身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「――そうだったんですね」
柊一さんの話を聞き終えた私は、静かにうなずいた。
そこからお互い言葉が続かず、沈黙が流れる。しばらくしてそれを破ったのは、柊一さんの声だった。
「俺は、美桜とまたやり直したいと思っている」
その言葉に、私はゆっくりと視線を上げた。
「結婚したいと思ってるよ。美桜と、それから冬真と家族になりたい」
「柊一さん……」
「だから、考えてくれないか、俺とのこと。できることなら一日でも早く結婚したいところだけど、美桜の気持ちを最優先に考える。けど、前向きに検討してくれたらうれしい」
そう告げると、柊一さんはソファから立ち上がった。
「それだけ伝えたかった。冬真にも会えて話ができたし、今日は帰るよ」
「えっ。もう帰っちゃうんですか」
背を向けて歩き出そうとする柊一さんを追いかけるように、私は慌ててその場から立ち上がる。
思いの外、柊一さんが早く帰ろうとするので驚いてしまった。コーヒーも半分以上残っているし、まだここでのんびりしていくものだと思っていたのに。
それに、もう少しだけ一緒にいたいと思ってしまった。